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【薬剤師執筆】急増している梅毒について解説します。②後編

   

梅毒トレポネーマ

こんにちは。本日のコラムは、近年日本で急増している「梅毒」についての後編です。梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌による感染症で、男女関わらず性行為によって感染します。前編では梅毒の基本的な情報や日本での流行状況などを解説しました。後編では、母子感染による「先天梅毒」についてと、男女問わず知っておくべき梅毒の予防法や対処法についてのQ&Aをお届けします。

当コラムに関するご注意点

先天梅毒とは

妊婦さんのイメージ

先天梅毒(先天性梅毒ともいう)は、梅毒に感染していることを気づかずに妊娠した場合や、妊娠中の性行為で梅毒に感染した場合などに、胎児が梅毒に感染してしまうことで発生する母子感染症です。

梅毒は妊娠週数に関わらず胎盤を通じて胎児に感染します。先天梅毒は、流産、死産などのリスクとなります。また流産、死産せずに生まれくることができても、先天異常(難聴、肝脾腫、⾓膜炎、⾻異常、⼼奇形、⻭の異常など)や、精神発達遅延などを持ってしまうリスクがあります。

梅毒は、性行為感染では早期梅毒(感染から1年以内)で相手にうつすリスクになりますが、母子感染では早期梅毒を過ぎた後、すなわち自身の感染から1年以上経っていても胎児にうつす可能性があります

ここ数年、妊娠適齢期の若い女性の梅毒報告が増えたことにともなって先天梅毒の報告数も増加しており、⽇本産科婦⼈科学会などからも注意喚起が出ています。

特に妊娠を考えているカップルは梅毒検査を受けて、カップル双方が梅毒に感染していないかどうかを確認することが重要です。また万が一、妊娠後に梅毒と診断された場合でも適切な治療を行うことで先天梅毒のリスクを下げることができるため、放置しないことが大切です。

ポイントを押さえて正しく防ぐ『梅毒Q&A』

ここからは、梅毒に感染しないため、そしてもし感染してしまったかもしれない場合に正しく治療できるようにするためのポイントをQ&A形式でお伝えしていきます。もしもの時に慌てないために、梅毒について知りましょう。

Q1. 梅毒はウイルス?それとも細菌?

梅毒は「梅毒トレポネーマ」という名前の細菌です。酸素に弱い菌のため、ヒトの粘液や血液中で生存、増殖します。

Q2. 梅毒は薬で治るの?

はい。梅毒は細菌なので抗菌薬で殺すことができます。梅毒治療は、ペニシリン系の抗菌薬による治療がスタンダードです。アモキシシリンの内服やベンジルペニシリンベンザチンの筋注といった抗菌薬治療を行います。ペニシリンアレルギーがある場合は、他の抗菌薬を使用します。途中で治療をやめると除菌に失敗する可能性があるため、最後までやめずに治療することが大切です。

Q3. 梅毒に感染しているかどうやったら調べられる?

梅毒のスクリーニングは血液検査で行います。詳しく分けると、「抗体検査(TP法)」と「RPR検査」の2種類の検査方法があります。セルフ検査などで入手できるのは前者の方で、梅毒トレポネーマの抗体の有無を調べることで梅毒に感染したことがあるかないかを検査できます。ただし抗体検査は、感染してすぐには陽性にならないことや、現在の感染ではなく過去の感染(治癒済みを含む)でも陽性になることがある点に注意が必要です。

梅毒は第五類感染症(全数把握対象疾患)に定められており、各自治体の保健所などが匿名などのプライバシーに配慮した形で検査を行ってる場合があり、無料や低額などで実施できるケースも多いです。少しでも怪しいと思う人は「 住まいの地域 + 梅毒検査 」などで検索してみましょう。

Q4. キスだけでもリスク?どんな性行為で梅毒になる?

梅毒は粘膜を介して感染するため、キスだけでも感染するリスクがあります。また膣内性交以外に、オーラルセックス(性器と口での性行為)やアナルセックス(性器と肛門での性行為)もリスクとなります。梅毒感染者と1回の性行為で感染する確率は約3分の1といわれています。

Q5. セックスパートナーが1人だけでもリスク?

梅毒は感染してから1年以内は感染力を維持するため、1年以上1人の相手としかセックスをしていない場合は低リスクといえます。逆に、特定のパートナーがいても1年以内に他の人と性的な接触を持った場合は、感染のリスクが十分にあり得るということです。

Q6. 梅毒から身を守る「セーファーセックス」とは?

梅毒に限らず性感染症(STI)から自分と相手を守るために、セーファーセックスを心掛けることが重要です。具体的には、コンドームを正しくつかうパートナーを特定する衛生的なセックスを行う、などのことを指します。

コンドーム

例えばコンドームは膣内性交の際に使用するイメージがあるかもしれませんが、コンドームを着用していない状態でオーラルセックスなどを行った場合、梅毒感染のリスクは防げません。

Q7. 梅毒は生涯で一度かかれば二度とならない?

いいえ。梅毒は一度かかって完治しても免疫を獲得することはないので、何度でも感染するリスクがあります。過去に梅毒にかかり既に治癒している人も、安心することなく予防しましょう。

性感染症(STI)の検査をしよう

性感染症(STI)の検査は、会社や自治体が実施する健康診断には含まれていないケースがほとんどで、受動的に検査を受ける機会はあまりないのが現状です。この現状こそが、梅毒がこれほどにも再流行してしまった要因のひとつともいえます。

血液検査

梅毒に限らず性感染症の検査は、早期発見や感染拡大防止のためにとても大切です。

自身やセックスパートナーに何かしらの異変があった
不特定の相手と性行為をした
妊娠を考えているカップル

上記などの状況では、ぜひ検査のタイミングとして実施を検討すると良いでしょう。先ほどのべたように、性感染症の検査は保健所で行えることが多いので、ぜひ一度調べてみてください。

本コラムをきっかけに梅毒のリスクを知り、正しく予防できる人が一人でも増えたら嬉しく思います。それではまた。

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