2024/08/13
こんにちは。本日はアフターピル(緊急避妊薬)について、日本の最新情報をお届けします。オオサカ堂ではこれまでも折に触れてお伝えしてきた話題です。「日本にいるすべての女性が望まない妊娠を回避できる手段や正しい知識を得る機会を増やしたい」という思いは、今後も変わることはありません。本コラムが性別を問わず沢山の人に届けば幸いです。
当コラムに関するご注意点
当記事は薬剤師による意見や助言等を含みます。情報の信頼性や不適切な表現がないか等、細心の注意を払って確認しておりますが、掲載内容については読者個々の健康管理上において何らかの保証をするものではありません。
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目次
おさらい|アフターピル(緊急避妊薬)とは?
レボノルゲストレル1.5mg
日本で承認が下りているアフターピル(緊急避妊薬)の有効成分はレボノルゲストレルのみです。飲み方も国際的に確立しており、性交後 72 時間以内に1.5mgを1回内服して終わりです。
レボノルゲストレルによる緊急避妊は、効果が高く安全性にも優れているとして、国際的にも標準的な方法として認められています。またWHO(世界保健機関)は、「意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性に緊急避妊にアクセスする権利がある」と勧告し、レボノルゲストレルをエッセンシャルドラッグ(必須医薬品)に指定しています。
どんな働きで妊娠を阻止する?
レボノルゲストレルは、合成された黄体ホルモン成分です。排卵を抑える作用が主な働きとしてあるほか、受精を阻害したり受精卵の着床を阻害したりする作用があり、これらの働きによって妊娠を防ぎます。
緊急避妊でレボノルゲストレルを服用すると、数日後~遅くても3週間以内に生理が来ます。これは「消退出血」と呼び、はがれ落ちた子宮内膜による出血であり、着床していない(=避妊に成功した)と取ることができます。
消退出血は普段の生理と比べて、出血量や出血日数、血の性状が異なる場合があります。消退出血を確認できても、アフターピルを服用してから3週間後を目安に婦人科で経過観察受診をした方が安心です。
服用タイミングと妊娠阻止率
レボノルゲストレルは、妊娠の心配がある性交後72時間以内に1.5mgを確実に服用することで81%程度の妊娠阻止率を得ることができ、服用が早ければ早いほど妊娠阻止率は高まります。日本国内での使用成績調査では妊娠阻止率は90%を超えており、正しく用いれば高い確率で妊娠を防げることを数値が示しています。
このことからも、不測の事態が起きた際にはとにかく時間との闘いです。速やかに安全にアフターピルにアクセスできる必要があります。
知っておくべき副作用とは
先にも述べたように、レボノルゲストレルによる緊急避妊法は国際的に標準かつ安全なものであり、重篤な有害事象は認められていません。
その上で、よくある副作用については日本と海外で以下の通り報告されています。
頭痛 | 10~12%程度 |
消退出血や不正子宮出血 | 31~46%程度 |
悪心 | 9~14%程度 |
下腹部の痛み | 3~14%程度 |
倦怠感や疲労感 | 8~14%程度 |
レボノルゲストレルは成立した妊娠に対しては効果がないため、妊婦には投与してはいけません。また重篤な肝障害を持つ人も使用できません。
諸外国の現状と日本の最新情報
レボノルゲストレルは、世界の約90の国と地域で医師の処方せんなしに薬局で購入することができます。また未成年者などに対して無償で提供される国もあります。
処方せんなしで薬剤師が販売できる | イギリス、ドイツ、フィンランド、インドなど |
一般用医薬品として薬剤師の関与なく購入できる | アメリカなど |
若年者や貧困層を対象とした無償または低価格での提供 | イギリス、ドイツ、フィンランド、インド、アメリカなど |
処方せんが必要 | 日本、韓国、シンガポールなど |
日本はどうかというと、結論から言うと現在まだその整備は完了していません。が、まさに今その整備段階であり、女性が緊急時に処方せんなしで安全かつ適切に利用できる仕組みを探る調査研究の一環として「試験販売」が開始されています。
2023年11月から薬局での試験販売が開始
国からの委託を受けた調査研究として、日本全国の一部の薬局では2023年11月から、アフターピル(緊急避妊薬)の試験販売を開始しています。
前項であげた通り、日本では薬局で処方せんなしにアフターピルを販売することはまだ認められていませんが、「妊娠が心配な性交から72時間以内に緊急避妊薬を購入して服用できる本人であって、研究参加を希望・同意する16歳以上の女性」であれば、研究の一環として処方せんなしにアフターピルを購入することができます。
おおまかな手順としては、以下の通りです。
調査研究の内容を理解して同意する
↓
緊急避妊薬を販売している薬局の中から行ける店舗を選び、電話で事前相談をする
※医学的、薬学的な理由で販売できないと判断されることがあります。
↓
薬局で薬剤師と面談をし、服用可否の判断と説明を受け、同意する
↓
薬剤師が服用確認をする形でレボノルゲストレルを購入・服用する
※レボノルゲストレルは7,000~9,000円で販売されます。
↓
服用当日と、3~5週間後の計2回、アンケート調査に回答
※詳しい研究参加の手順や試験販売についての情報は特設サイト(リンク先へ飛びます)を必ずご確認ください。現在試験販売を行っている薬局のリストは、手順を理解し同意した先のページで閲覧することができます。
日本ではアフターピルのアクセス状況改善について、長年議論されながらもなかなか前に進むことができませんでしたが、この研究が諸外国とのギャップをようやく埋められる足掛かりになろうとしています。
研究の途中報告では、2023年11月28日~2024年1月31日の2ヶ月強で2,000を超える販売が行われ、研究に参加した購入者のアンケート結果では購入者ほぼ全員が「薬剤師からの説明をよく理解できた」と回答しました。
また「今後アフターピルの服用が必要になった時にどうしたいか」という設問に対しても82.2%の人が「医師の診察を受けずに、薬局で薬剤師の面談を受けてから服用したい」と回答しています。
オンライン診療という方法もあります
薬局での試験販売は現時点では研究の一環であり、いつまで継続されるか明確になっていません。この他の手段として、有事の際に病院へ行くことが難しい場合にはオンライン診療を受けるという方法もあります。
令和3年より、緊急避妊に係る診療については産婦人科医や、厚労省が指定する研修を受けた医師が、初診からオンライン診療を行うことが認められました。オンラインで医師の診察を受けてから処方せんを発行してもらい、薬局で薬を交付してもらう(配送対応が可能な場合もある)という流れです。
望まない妊娠を防ぐために
アフターピルは有事の際にはとにかく迅速に服用しなくてはならない薬ですが、日本の現状は診察と処方せんの交付が必須であり、アクセスのハードルが高いと言わざるを得ません。一日も早いアクセス状況改善を願いたいところです。他方で、日本ではアフターピルのアクセスが容易な諸外国と比べて、性教育の遅れがあることも課題です。
アフターピルは先にも述べたように、緊急的に用いるための手段であり、正しい避妊方法を知っており実行できれば使わなくて済むお薬です。日常的に実施可能でより確実な避妊方法は、男女ともにあります。女性だけの問題ではないにも関わらず、女性にだけ精神的、身体的、経済的な負担がのしかかっていいはずがないのです。
アフターピルの安心安全な薬局販売の実現に加えて、避妊方法を含めた性教育の推進なども日本の課題といえます。オオサカ堂スタッフブログを通じても、リプロダクティブヘルス・ライツに関わる正しい情報を今後もお届けしていきたいと思います。
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