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【薬剤師執筆】急増している梅毒について解説します。①前編

      2024/08/23

梅毒トレポネーマ

こんにちは。今回のテーマは近年日本で急増している「梅毒」について。梅毒トレポネーマという細菌による感染症で、男女関わらず性行為によって感染します。一度感染すると1年以上感染力を保持することがあるにも関わらず、自覚症状がない場合もあり、無自覚に感染を広めてしまう危険性があります。
本コラムでは前編・後編の2回にわたり、梅毒の知っておくべきリスクと予防法、治療法などについて解説したいと思います。少しでも多くの方に梅毒を知っていただき、防ぐきっかけになれば幸いです。

当コラムに関するご注意点

梅毒トレポネーマとは

梅毒トレポネーマは「スピロヘータ」というらせん状の細菌の一種で、ヒトの体を唯一の宿主として広がる生物です。梅毒は性感染症(STI:Sexually Transmitted Infection)のひとつで、男女問わず性行為によって感染します。

梅毒は、さかのぼること戦前ぐらい昔には「治療法が無く死に至る病」として恐れられていました。その後、細菌が原因だと分かり抗菌薬で治せることが判明してからは1967年の流行を最後に、2010年頃まではずっと減少していました。

そんな梅毒がここ十数年で再流行しており、近年は毎年感染者数を更新し続けるという深刻な事態に発展しています。

梅毒の怖さは「気づきにくさ」

梅毒はとにかく「気づきにくい」という点が感染拡大の要因のひとつであり、怖い部分です。感染してから症状が出るまでの「潜伏期間」が3週間前後と長く、また症状は一度出ても無治療のまましばらくすると自然に消える特徴があり、治ったと勘違いして治療の機会を見逃しやすいのです。

しかしたとえ症状が消えても、治療しない限り梅毒トレポネーマは体内に残り続けます。そして感染力は1年近く保持されるため、この間の性行為によって感染はどんどん拡大してしまうのです。

加えて、梅毒は「性感染症」であることが広く認知されているために、心理的な要因で受診を避けてしまいがちです。こうした理由が重なることで、感染拡大が制御できなくなってきているのが日本の現状です。

梅毒は適切に治療すれば治る病なので、恐れず恥じることなく、病院や保健所で検査や治療を受けることが肝心です。

梅毒の進行と症状の流れ

性行為によって梅毒トレポネーマに感染してからの時間経過とフェーズに応じた症状の特徴について、時系列で見ていきましょう。

早期梅毒(Ⅰ期):感染イベントから約3週間前後

梅毒トレポネーマの侵入部位に、無痛の腫れや潰瘍のようなものが現れます(無症状の人もいます)。侵入部位の多くが性器や口なので、ここに症状が出ます。
この時期の症状は、見た目には気づいたとしても痛みが無いために放置しがちです。そうしているうちに病変は自然に消えます。治ったと勘違いしがちですが、治療しない限り細菌は体内に残り続けます。
※この期間は、男女ともにセックスパートナーへうつす可能性があり、女性は母子感染のリスクがあります。

早期梅毒(Ⅰ期)の症状
早期梅毒(Ⅰ期)の症状

早期梅毒(Ⅱ期):Ⅰ期の1~3ヶ月後から1年以内

Ⅰ期が自然軽快してしばらくすると、全身にまわった細菌によって手足や背中などに発疹(ブツブツ)が現れます。これは「バラ疹」と呼びⅡ期の最も特徴的な症状ですが、これも無痛であったり、消えては現れを繰り返したりするため放置しがちです。発熱や倦怠感など、風邪と似たような症状も一緒に現れることがあります。
※この期間は、男女ともにセックスパートナーへうつす可能性があり、女性は母子感染のリスクがあります。

早期梅毒(Ⅱ期)のバラ疹
早期梅毒(Ⅱ期)の症状(バラ疹)

晩期梅毒(Ⅲ期):感染から数年~数十年後

感染から無治療でそのまま経過すると、数年~数十年を経て心臓や神経などに障害をきたすことがあり、死に至る可能性があります。
晩期梅毒は、抗菌薬で適切に治療すれば回避できるため現在ではまれですが、「治療すれば」の話であり放置してはいけません。

各フェーズへの進行と症状のおおまかな流れは以上ですが、上記のすべてのフェーズで神経梅毒(精神症状や認知機能異常など)、眼梅毒(見えにくさなど)、耳梅毒(難聴など)とよばれる症状も併発することがあります。梅毒トレポネーマは、人体の増殖した先々で悪さをするのです。

日本での梅毒報告数は急増中

梅毒報告数の年次推移
グラフ:梅毒報告数の年次推移

2023年の梅毒報告数は、1999年(報告義務が定められた年)以来の過去最多を記録してしまいました。特に、直近の2021年以降に感染者が急増しており、今後も増え続けるおそれがあります。

最新の報告者は男性が9,608人、女性が5,298人となっており、総数は男性が女性の約2倍多いです。
一方でグラフ一番左の2010年と比較した増加率を見ると、男性は約20倍なのに対して女性は約43倍と顕著に増加してます。

2023年の年代別梅毒報告数
グラフ:2023年の年代別梅毒報告数

続いて2023年の年代と性別の報告数を見てみると、女性は20~29歳に集中しており、男性は広く20~50代に多いという特徴が見えてきます。実はこのトレンドは、梅毒が増加傾向にあるアメリカやイギリスなど、日本以外の先進国でも同様に見られており、異性間性交による感染拡大がその要因といわれています。

日本では、男性の報告数が2015年に異性間性交による感染が同性間性交による感染数を上回り、現在は異性間性交による感染数が圧倒的となっています。この時期と比例するようにして若い女性の感染者数も急増する結果となり、これが後編で解説する「先天性梅毒」の増加にも深刻な影響を及ぼしています。

男性女性
従事あり2%34%
従事なし61%37%
利用あり40%3%
利用なし26%48%
※「不明」や「空欄」といった回答は除いてある。
表:梅毒感染報告における直近6か月以内の性風俗産業の従事歴&利用歴

また梅毒は、性風俗産業の従事や利用がリスクになり得ますが、直近の報告を見ると性風俗産業と関与がない人にも感染が及んでいることが分かります。

夜の世界と無縁な生活をしている人にも梅毒の危険性があるため、注意が必要です。

後編へ続く

次回は、梅毒感染後に妊娠したり妊娠後に梅毒に感染したりすることで胎児に発生するおそれのある「先天性梅毒」についての解説と、梅毒の具体的な予防や対処についてのQ&A解説をします。お楽しみに。

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